名フィル第489回定期演奏会 〈沼尻竜典のショスタコーヴィチ#11〉 
▊ モーツァルト:ヴァイオリン協奏曲第4番ニ長調 K.218 
▊ ショスタコーヴィチ:交響曲第11番ト短調 作品103『1905年』 
愛知県芸術劇場コンサートホール 
沼尻竜典(指揮) 
神尾真由子(ヴァイオリン)

 2020年に実に13シーズンぶりの定期再登場を果たし、絶賛を博した沼尻竜典が選んだ“スペシャリティ”は、ショスタコーヴィチの11番。革命を擁護するかのような標題ながら、音楽ではその悲劇性を描いたドラマティックな交響曲です。ソリストには世界で活躍し続けている神尾真由子が、沼尻常任指揮者時代の2005年以来の再登場(定期演奏会は初登場)となります。

  モーツァルト 
 神尾真由子氏は豪快で力強い演奏のイメージをyoutubeで見た限り持っていたけど、実際もやはりそのイメージに似ていた。なよなよ感は殆ど無くて、とはいえ豪快なんだけれども快活というわけでもなく、寧ろ鬱屈して心の内に滾るものがあることを感じさせるエネルギッシュな演奏。アタックは非常にはっきりしていて重音がばっちり決まると気持ち良い。ビブラートは揺れ幅が大きくて(要検証?)要所では絶大な効果を発揮するけど多少大味に感じる部分もあるかも。

  4番のソロの出だしは結構力の入りやすい音形で演奏者によって抜き具合(アタックの力強さとかリリースの早さとか)は全然違ってくるけど、今回は神尾氏の個性が存分に出た、はっきりとしたアタック、割と音形を保った(サステインの減衰が無いと言っていいのかわからん)音で「固さ」がある。この固さはモーツァルトに向いてるとか向いてないとか色々個々人の思想があると思うけど、個人的にはアリ。ただオケは従来の柔らかい感じなので、浮いていたっていうのは正直あったかも。でもこれはどうしようもない気もする。ピアノ伴奏だと映えるかもしれないと思った。これはただの好みだけど、pはもっと静かでフォルテと対比欲しかった。フォルテが音固いのは良いんだけど音色がピアノの部分も硬すぎる気もする。カデンツァは誰のだったんだろう。A線とE線の重音をキメに使ったとっても氏に合ったものだったのでひょっとしたらオリジナルかも? 

 アンコールはエルンスト編曲の魔王。いつぞやのインタビューで、ハイフェッツの「観客が寝るくらいなら演奏スピードを上げ、技術があるなら見せたほうが良い」という言葉を意識していると言っていたので、ひょっとしたらそういう意図もあって難曲を披露してくれたのかもしれない。実際彼女の魔王聞きたかったし良かった。やっぱり上手ですよね。ちょっと忘れたけどフラジオが出てくるところとかでテンポがっつり落としてた気がする。これは結構意外だった。でも良かったうまい。 ショスタコーヴィチ 
 元々Vn協奏曲がお目当てであんまりこちらは注目していなかったんだけど予習にwikipediaみたりして、引用されている軍歌をいろいろ聞いているうちに結構ハマった。1番初めになんの事前情報無しで聴いた時はごちゃついててよーわからん曲だなと思ったけど、軍歌を知っていると矢継ぎ早に色々登場してきてかなり面白くなり楽しむことができた。最初はいまいちでも勉強すれば楽しめるようになるというのはクラシック音楽の1つの魅力であると思っているので実際にそういう曲に遭遇するとテンション上がる。

  演奏もすごく良かった。まず、一番最後のチャイムの余韻。15秒くらいグワングワン余韻が続いて、それを誰も拍手せず終わるまでまっていた。これはコロナでブラボーが抑制されているからできたことだと思う。コロナで良かった。。。とは言ってはいけないけど、コロナ明けてもフライングブラボーに対する抑制力は続いていて欲しいと切に願う。youtubeでちらっと確認した限りでは余韻を長時間残した録音は見当たらなかったので、沼尻氏になぜこのような風にしたのか聞きたいところ。実際演奏効果がものすごかった。一般参賀にも納得。

  中間部の音圧もすごかった。オーケストラってこんなに音出せるんだなぁって思った。単純にトランペットを筆頭にほぼほぼ同音形で縦がそろった感じだけど、音が団子になっておらず突き抜けてきた。ショスタコーヴィチって似たような曲ばかりで正直つまらんと思ってたけど舐めてた。軍歌を立派な交響曲に仕上げてしまうオーケストレーション、音の重ね方とかの管弦楽法、今後の研究対象ですな。解釈については比較できるほど勉強してないのでノーコメント。でも音量バランス、アタックのそろい具合等はばっちりだったような気がする。 

 以上