ユーガとフーガという双子を中心に展開する物語。ユーガが主旋律。

ヒーロー、サディズム、性的嗜虐といった伊坂に不可欠な要素を存分に含みつつ、物語の抑揚が過去作以上の変化に富んだダイナミクスのある一品。拷問成分は弱め。

冒頭「あれ?これはどういう話なんだおかしいな」と、思い始めた時に入る素晴らしく絶妙なタイミングの場面転換。

丁度本の真ん中あたりで入る物語の小休止、まるで第1楽章の'コーダ'のような解決感が心地よさを生み出すとともに、さらなる物語の、いやフーガの発展を期待させる効果を発揮する。
その分終楽章のコーダは頂点感が薄いかもしれない。ただ中間部にも1つ頂点があるせいでそう感じるだけで、実際には怒涛の伏線回収劇が繰り広げられていることに変わりはなく、満足感をしっかり覚えさせてくれる。

一番最後の形式段落は、語り口がユーガのままになっているがどういう意味なのだろうか。一番最初の文「僕が殴られているのを、僕は少し離れたところで感じている」が表すように、双子の感覚や経験は共通であるという文がたびたび登場する。もし一翼に何かがあったら、の場合も解決されているが、この俯瞰的な語り口は心残りだ。何か読み逃してしまった部分があるのだろうか……。他にも、サブの登場人物の掘り下げが少ないなど伊坂の中では読後感のスッキリ度は低い。しかし私はいつもとは違うリズム感を感じ高評価。

以上