10/11土曜日 ウィーン国立歌劇場 フィガロの結婚
2025/10/11 ウィーン国立歌劇場 フィガロの結婚
東京文化会館 14:00
ものすごく感動するとかではなく、近所のスーパーから成城石井に変えたとか、ユニクロからプラステにしたような、いや上手くない例えだけど、世界一の歌劇場だからと完璧なものを期待してからみるとプロダクションを総合して考えたら案外想像の範囲内だった気がする。歌手は良し悪しアリで実力にバラツキがある感じも二期会や藤原にも共通するし、指揮者だって上手いけど完璧じゃない。まあオーケストラ自体は別格で凄く、モーツァルトはこう弾くのだよと勉強させていただいた。これだけでも行った価値があったけども。
歌手はケルビーノ役のパトリツィア・ノルツPatricia
Nolzが頭一つ抜けており、ダイナミクスの自由度や音のリリースへの気遣いが最も音楽的で素晴らしかった。声の柔らかさやビブラートの巧みさは言うまでもない。録音を聴いて勉強したい。録音で分かるなら、だが。次点で伯爵夫人。伯爵夫人は声量が豊かでソロの最大の見せ場を見事にこなし、強い印象を残した。カーテンコールの拍手もひときわ大きい。ただその分全体的に声量コントロールが大ぶりで弱音表現がもう少し欲しかった。フレージングも平らになりがちである。他にアルマヴィーヴァ伯爵やスザンナ役も代打ではあるが特別な不満は無い。所々、例えば第3幕終わりの手紙の二重奏ではもう少し二人の雰囲気がそろっているとよかったと思うこともあったりしたが。一方フィガロ役はとにかく周りに比べ声が小さく、かなりこもった声質も相まって声が通らず残念だった。
指揮者のベルトラン・ド・ビリーはオケをしっかりまとめあげ、特に歌手が休みでオーケストラ自体を聴かせる場面や早いテンポの所で積極的に振り、雰囲気を先導するのが上手だった。アリアではテンポがやや快速気味かと思ったが間延びするよりいいだろう。しかし舞台が後半にいくにつれ曲の終わりやカデンツのドミナントでやや巻くようになり、オーケストラや歌手よりも微妙に早く切り上げてしまう。アンサンブルが瞬間的に乱れる場面が散見された。奏者はもっとたっぷり歌いたそうに見えたがせっかちに終わらせてしまうのが気になった。この現象を他の日本人オペラ指揮者でも見たことがあるのだが何故こうなるのだろう。その時は知り合いのオペラ通も私と同意見で「もったいない」と言っていた。因みに予定通り休憩込み3時間35分で終演。
弦楽器の奏法に触れる。私が感じたことは、短い音は結構短め、二分音符以上は大抵抜く、フレージングがどうこうというより、動機や小楽節単位で音量による性格付けをかなりハッキリ行う、そのために強い音は強く弾かなければならないし、弱い楽節は弱いままでなければならない。ただしベッタリしすぎない、ということである。ガンバロー俺。これをオーケストラ内で統一してできているというのが凄いのだ。常設の歌劇場楽団の演奏に触れられてとても気分が良い。序曲はかなりアーティキュレーションが凝っていて、今まで聴いてきたものとは別物だった。ぶっちゃけ序曲だけ作り込みがすごすぎてオペラとは別物のように感じた。これは文章で書ききれないので楽譜を見ながら何かしらの録音を聴くことにする。録音で確認できればだが。そういえば休憩中にRシュトラウスだったかのヴァイオリンソナタの派手な部分弾いてる人いた。サービスか?
ハンマークラヴィーアもといピアノフォルテの通奏低音。アルペジオ自体の分離が強く、またレチタティーヴォ終わりで上への派手なアルペジオを使いがちであり結構存在感が強く正直邪魔に感じる部分もあるにはあった。見方を変えればクラヴィーア奏者の個性があってよかったとか、クラヴィーア自体も一つの演じられた役にも思えてくるとか言えるが。
演出はモダンだが演出家の思想が盛り込まれたものではなくオーソドックスであったといえよう。特に良くも悪くもない。と思ったが、見る人が見れば現代社会に対するメッセージか何かを受け取れたのかもしれない。それから客の集中度は過去一高かった。咳もわずかで飴のビニール音も無し。
冒頭に高品質なスタンダードと書いたが、価格を考慮しない場合何年も高級スーパーに慣れてしまうと格安スーパーでは品質に満足できなくなるだろう。日常的に上質なオーケストラが聞ける人を羨ましく思うのであった。
長々と書いてきたが一言でまとめると、歌手陣の実力が思ったより低くちょっとガッカリな一方、オーケストラが上手すぎる、ということだろう。来週もブロムシュテットを聞きに東京に行くので今月は交通費だけで大赤字である。週末は床掃除のバイトなんてしてる場合じゃなくて先物を売るべきだった。以上。
その他。
コントラバスは4人。
席が遠いからだろうけどプロンプターの声は一切聞こえなかった。
演出でプロンプターの入ってる台に乗ったり、のぞいたりがあった。
第3幕の終わりは数人拍手した程度だった。これは幕が閉じられずに合唱隊が舞台奥へ隠れるだけの演出だったため拍手し始めるタイミングがわかりにくいのもあった。
カーテンコールは10分間ないくらい。意外とあっさり目。1階席の人たちはスタンディングしてた。
特製プログラム3000円也。スパークリングワイン2000円也。グラスワイン800円也。
実は東京文化会館初めてなので行けてよかった。サイド席でも前と横の人がきちんと背中をつけてくれれば舞台上はほぼすべて見える。ピット内の指揮者は私の身長で肩から上がなんとか見えた。コンサート前はトーハクの運慶展と藝大美術館にお邪魔した。
10/11のキャスト NBS公式サイトより
指揮:ベルトラン・ド・ビリー Musikalische Leitung:Bertrand de
Billy
演出:バリー・コスキー Inszenierung:Barrie Kosky
装置:ルーファス・ディドヴィシュス Bühne:Rufus Didwiszus
衣裳:ヴィクトリア・ベーア Kostüme:Victoria Behr
照明:フランク・エヴィン Licht:Franck Evin
合唱監督:トーマス・ラング Choreinstudierung:Thomas Lang
アルマヴィーヴァ伯爵:ダヴィデ・ルチアーノ Conte d'Almaviva:Davide
Luciano
アルマヴィーヴァ伯爵夫人:ハンナ=エリザベット・ミュラー Contessa
d'Almaviva:Hanna-Elisabeth Müller スザンナ:カタリナ・コンラディ
Susanna:Katharina Konradi
フィガロ:リッカルド・ファッシ Figaro:Riccardo Fassi
ケルビーノ:パトリツィア・ノルツ Cherubino:Patricia Nolz
マルチェリーナ:ステファニー・ハウツィール Marcellina:Stephanie
Houtzeel
バジリオ:ダニエル・イェンツ Basilio:Daniel Jenz
ドン・クルツィオ:アンドレア・ジョヴァンニーニ Don Curzio:Andrea
Giovannini
バルトロ:マテウス・フランサ Bartolo:Matheus França
アントニオ:クレメンス・ウンターライナー Antonio:Clemens
Unterreiner
バルバリーナ:ハン・ヘジン Barbarina:Hyejin Han
ウィーン国立歌劇場管弦楽団 Orchester der Wiener Staatsoper
ハンマークラヴィーア: トンマーゾ・レポレ Hammerklavier: Tommaso
Lepore
ウィーン国立歌劇場合唱団 Chor der Wiener Staatsoper
ウィーン国立歌劇場助演 Komparserie der Wiener Staatsoper
演出補: リザ・パドゥヴァス
Abendspielleitung: Lisa Padouvas
プロンプター: ルーチョ・ゴリノ Maestro
Suggeritore: Lucio Golino
◆上演時間◆ 第1幕 第2幕 14:00-15:45
休憩 30分 第3幕 第4幕 16:15-17:35
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